2022年7月11日月曜日

追悼 安倍元首相

  奇しくも安倍さんが狙われた前日久しぶりに梅田で映画を見た帰り、ちょっと時間があって近鉄西大寺駅のエキナカ「成城石井」で買い物をしていた。数年前にまだ現役の時に平成元年生まれの部下の男と梅田の牡蠣の店に偶々入ったことがある。「かき鐡」という店に入ると、麻生元首相や当時まだ現首相の安倍さんの直筆の書があり、店はまだ時間的に閑散としていたので、店主に「安倍さんはどこに座ってました?」って聞くと、彼が座った椅子を案内してくれたことを覚えている。メディアも知らないから恐らくお忍びで来た店だと思う。

 比ぶべくもないが、安倍さんは昭和29年9月21日に政治家一家の中に生まれ、なるべくして総理大臣になっている。私の祖父は村会議員を4期勤めたのみで、その祖父と父が同居をしていた10月7日に私は生まれた。ちょうど「憲政の神様」と称された尾崎咢堂こと尾崎行雄が逝去したので憲法にちなんで命名されたと聞いている。

 その安倍元首相がなぜ狙われたかという山上容疑者の動機について複数の取材結果が出ているが、彼の政治信条ではなく容疑者の個人的な宗教上の理由が主な動機であることが分かってきた。これまでTVでは明らかになっていないが(7月11日になってようやく宗教団体を報道)、「世界平和統一家庭連合」(統一教会のこと)に入信した母親が容疑者の言葉を借りれば「統一教会の霊感商法で(家財を貢いで母親が自己破産し)一家がバラバラになってしまった」のだと言う。父親の死因は知れないが、兄の自殺(兄弟の自殺は彼の人生に暗い影を落としたことだろう)、その後の宗教による家庭崩壊、それだけに同教団に恨みを持ち続けていたのであろう。

 また公明党が創価学会と一体であるように、政治家も票に結びつくため、信者ではないが「持ちつ持たれつ」の関係を何らかの宗教団体と結ぶことはよくあることだと思われる。実際に祖父の岸信介の時代から同団体とは近しく、安倍さんも付き合いからかメッセージを送ったりもしている。そして容疑者は「岸が日本にその宗教を入れたから(団体のトップは来日せず、安倍元首相を)狙った」と供述している。

 元海上自衛隊員の彼は、3年以上の任期制自衛官(産休職員とかの穴埋め)であったが、その頃に銃の扱いを習得したと思われる。私も銃の分解と組み立てはできるが、彼のような部品をネットで購入し短期間で手製の短い筒状の二連装散弾銃を作ってしまうのは確かな技術を持っているということができる。引き金はなく、ボタン式でリード線により発火装置に結ばれるように出来ている。この辺は、当時國松警察庁長官を狙撃した中村泰とも被る。彼も相当な射撃の名手であり、短銃をマニュアルなしで作ってしまう技量を持っていた。

 最近この事件の関係で、警護警備のあり方について元警護課(SP)の人によくインタビューしている報道があるが、あ、なるほどと思える人とそうでない人に分かれる。特に元警視総監などという人が答えているのがあったが、当時警察庁長官狙撃事件を捜査する公安を直接指揮していたのは警視総監であり、最初からオーム有りきの捜査に偏ってしまった(先入観を排除しなければならないという鉄則を無視した)。途中で刑事部が参加し、あらゆる証拠から犯人が中村ではないかと捜査していたが潰されてしまっていた。結局誤認逮捕を重ねることになり、時効に至る。後年國松氏自身が当時の事件捜査についての誤りを指摘している。

 現場の状況をああでもないこうでもないと主張したところで、今回警察の一枚上をいっていた山上容疑者を押さえることは出来なかったと私は思う。というのも彼には既に対象者をヒットできる確信があったし、絶対的とも言えるだけの訓練を重ねてきたはずだから。この辺については、映画「ジャッカルの日」を思い起こさせる。

 「ジャッカルの日」は、当時人気作家であったフレデリック・フォーサイスの原作をフレッド・ジンネマン監督により映画化されたが、当初はなぜか酷評されていた。私はそれでもこの映画が好きで何回も見ている。最後に「ジャッカルのような人間はどこの世界にもいるもんだ」と述懐するシーンがある。彼は多額の見返りを求めるヒットマンであるが、確実性を何より求めたから性能の良い改造ライフルを手にして試し、命中精度を高めていく。ジリジリと対象に近づくジャッカルと、フランス警察の絶対暗殺を阻止する警備当局とのサスペンスで、最後にドゴール大統領が暗殺されるのかどうかという息も付かせないギリギリのつば迫り合いが観客を巻き込んでいくという筋書きだった。

 昔六本木の派出所で二名の警察官が元自衛官に殺害され拳銃を奪われるという事件があった。当時初めてサバイバルナイフというものが凶器に使われたが、信じられないと思う人が多いかも知れないが、徴兵制で鍛えられている韓国人の若者ならこのようにいとも簡単に警察官に近づき殺害する能力を有している。北朝鮮やロシアのスパイ然りである。日本では、オーム真理教が地下鉄サリン事件を起こしたことで人々の記憶に残っているが、特定の宗教も含めて(政治信条に依らずとも)ある日突然白昼堂々凶行が引き起こされることはいつでも大いにあり得ると私は思う。3年前吹田の千里山交番で警察官が襲われ拳銃を強奪される事件があったのもまだ記憶に新しい。


 ※ 写真は時事通信社が発表したものです。

 今回の事件では奈良で起きたこともあり、奈良に住んでいる者にとっては何か特別な気がしている。安倍文殊院は、陰陽師安倍晴明が修行をした寺院として知られるが、安倍元首相も12年前には縁が深いとして寄進をしている。安倍昭恵夫人のことを安倍さんは同志のようだと言っているのを聞いたことがある。確かに彼女はずっと活動的なファーストレディだった。フィリピンではアキノ上院議員が暗殺された時アキノ夫人が立ち上がり大統領になったが….いや憶測を呼ぶような話はやめよう。ただ一つだけ残念なことは、どうして自殺してしまった財務省の職員の婦人にちゃんと向き合ってやらなかったのだろうか、ということである。赤城ファイルは黒塗りの公文書であった。山口敬之氏に関わる警察の逮捕権についての問題(不当な逮捕を逮捕権の乱用と左翼は叫ぶが、逆に逮捕すべきをしなかったことが問題となった)。先ほどの黒塗りの公文書問題は、最近では兵庫県警の機動隊員の相次ぐ自殺について事実を公表して欲しいと願う遺族に対して、逆撫でするように全面黒塗りの文書を交付している。忖度という言葉がやたら流行った。立身出世主義がその生みの親である。様々な問題を投げかけた自民党の最大派閥を擁した安倍派(清和政策研究会が正式名)の領袖が逝った。

佐賀TVはがくれ時評

今夜7月11日東京都港区の増上寺では、家族葬ではあるが、喪主安倍昭恵夫人が務める通夜がしめやかに行われている。


参考文献等;鹿島圭介「警察庁長官を撃った男」                    

      原 雄一「宿命」

      NHK特集「未解決事件 File.7 警察庁長官狙撃事件」

      フレデリック・フォーサイス「ジャッカルの日」

     






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