2028年の夏も結構暑くて、みんな暑さ凌ぎか家の中に入ってテレビを見ることで誤魔化していた。ちょうどロス五輪が開幕し、日本のお家芸の柔道が盛り返して、中でも阿部詩選手が金メダルを奪ったことで沸いていた。三十五がその夜、四歳になる鷹翔(たかと)にせがまれて絵本を見聴かせていた。何度も同じものが好きなのが鷹翔だった。
その家は、ちょうど 日本最古の道である「山辺の道」沿いにあり、近くの田んぼの蛙が遅くまで鳴いていた。空は満天の星で、鷹翔の父親は、ベランダに出て星を見ていた。もう大阪に出てまでして仕事はしていなくて、だから鷹翔の送り迎えがいちばんの仕事で、その次は鷹翔の母親の送り迎えだった。それも定着していたし、最近では料理のレパートリーも増えて、その料理を褒めてもらうために一層励んで料理を作っていた。
鷹翔が寝てから三十五は、夫を促して早く中に入らないと身体が冷え込むわよと催促したが、ほんとうは自分の仕事が朝早いからだし、夫と早くベッドに入りたいからでもあった。
「もう身体に触るでしょ、あなたも歳なんだから」
「また歳かよ。」
この辺りは、6月には自生の紫陽花が道沿いの石垣に咲き誇るし、9月になれば芙蓉の花も咲く。夏を惜むかのようにツクツク法師やひぐらしがいつまでも鳴いて、夜には虫の音が囀り、そんなどこにでもあるような静けさと幸せに満ち足りた時を過ごすのが三十五は好きだった。そしてそばで三十五のそんな笑顔を見るのも夫は好きだった。7月にはぶどうが今年もたくさん実を付けて、8月には最盛期になって三人でぶどう狩りをして楽しんだのを思い出していた。
「あなた。何をにこにこしてるのさっきから、早く布団に入って」
そうして小さな家の明かりがしばらく灯って、ゆっくりと夜が更けていくのだった。
PS;三十五やったら、夏中ハンドカバーかなんかやってるんやろうなぁ、肌に気遣ってたからさ。早く秋にならないかと思ってるはず。もう世の中のみんなが夏の暑さに参ってたから、誰しもそう思ってる。この間浜松市が童話募集してたから送った。自然災害は、森の中に住む動物、中でも虫たちに大きな影響がある、そんな話を母親が娘の咲に話をして聞かせている、そんなストーリー。
補追;夏にはその浜松市の天竜町では山崩れがあったし、また昨日(10月4日) には竜巻の被害でビニールハウスが飛ばされたりしていた。
MC183 sekaijyude ichiban taisetsunahito 35
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