2023年9月8日金曜日

あるアルピニストの死

    女性アルピニストの谷口けい(43歳)は、2015年12月22日北海道の大雪山系黒岳(標高1984メートル)で滑落死した。2007年にはエベレストに登頂し、女性で初の「ピオレ・ドール」賞(世界の登山界の最高の栄誉)を受賞している。明治大学時代には登山よりサイクルスポーツに目覚め日本中を走り回っていたし、その後バイクツーリングや憧れた植村直己が眠っているマッキンリーやマナスル(野口健とエベレストの清掃活動に従事)登頂など休むことなく活動した人だった。最後の黒岳では3人のパーティの一人で、積雪の中いわゆる「お花摘み」(用を足すこと)の最中に誤って足を滑らせて滑落し帰らぬ人となった。

 43歳という年齢は、山を極めた登山家に共通していることを私は最近になって知った。1984年2月植村直己がアラスカのマッキンリー(標高6190メートル)登山中に亡くなっているが、私がまだ若い頃(彼の死の6年前)彼が犬ぞりによる北極点到達した際に僅かながら支援者の一人であった。彼も43歳で亡くなっているが今だに遺体は発見されてはいない。彼から送られてきた記念のシールはどこに行ったか不明だ。彼は言った。「私の中の劣等感が私を極地に駆り立てるのです」と。

 そして、この人は絶対死なないと信じていた人も同じ歳で亡くなっている。ヨーロッパアルプスの三大北壁であるマッターホルン(4478メートル)アイガー(3970メートル)グランドジョラス(4208メートル)の冬季単独登頂(世界初)を成し遂げている長谷川恒男。この人もエベレストで亡くなってしまった。

 ただ亡くなっていない人もいるにはいる。ヒマラヤ山脈 the Himarayan range = the Himaraya Mountains は有名なエベレスト一つではなく、多くの山々が連なっているのである。日本の代表的なアルピニスト竹内洋岳(ひろたか)は、エベレストをはじめ14座すべてを登頂した登山家である。14座とは、エベレスト(8848メートル)K2(8611メートル)カンチェンジュンガ(8586メートル)ローツェ(8516メートル)マカルー(8463メートル)チョ・オユー(8188メートル)ダウラギリ(8163メートル)マナスル(8163メートル)ナンガ・パルバット(8126メートル)アンナ・プルナ(8091メートル)ガッシャーブルムI(8080メートル)ブロード・ピーク(8051メートル)ガッシャーブルムII(8035メートル)シシャパンマ(8027メートル)である。彼がその山々を征服する前に一度雪崩に巻き込まれ遭難している。その時偶々外国の医師の男女の登山家2名に遭遇し助けられ(パーティの他の2名は死亡)、奇跡的に生還している。つまり一度は死んだ男なのだ。

 人はなぜ山に登るのか?例え凍傷で手を失ったとしても。これは山登りの人にとっての永遠の命題だろう。「そこに山があるから」と答えたのは英国の登山家ジョージ・マロリーである。日本の谷川岳一ノ倉沢は、登山家にとってどうしても一度は登らなくてはいけない難所であり、自分の目標とした山と思った登山家は限りなく多いし、それだけに山がそういった人たちの意志を拒んで命を絶った人も限りなく多い。谷川岳にはそういった人たちの碑が立っている。それでも日本の山に飽き足らず、五大陸五大峰を登頂するとか、アルプスの冬季単独登攀とかをやる冒険家が日本人にはいたのである。

 今日本ではジャニーズ問題を新体制で出発するという記者会見や来週内閣の改造があるが既に留任が公表された木原官房副長官(補足;後に本人が固辞)の妻の問題、秋本衆議院議員の収賄容疑での逮捕と様々な興味深い話題がマスコミを賑わしている。そういえば、2年前の2021年10月24日に岐阜県の北穂高岳(標高3106メートル)に登頂しようとしていて遭難していた内閣府大臣官房審議官の酒田元洋氏(53歳)が遺体で発見されている。この人が遭難したのは、ちょうど入山中に発生した震度4の地震が高山市であり、その最中であったことも関係があったかも知れない。ちょうど「桜を見る会」の問題で経緯を説明する任務を負っていた人でもあったので様々な憶測を呼んだ。

 山はただ人間の味方ではない。動物や植物も含めた自然の中で脅威に感じることもあるだろう。それは人間が大自然の中で本来畏れを感じなければいけない存在であるからであり、少しでもそれに逆らったならば命を取られることを意味する壁のような存在でもある。

 日本の女性登山家で渡邊直子(42歳)は現役の看護師であり登山家でもあるが、現在13座を征服しており、あと1座と残している。もし残すシシャパンマの登頂に取り付いたとして、無事に帰って来て欲しいと、本当に心から願うばかりである。

 追記;明日(9・10)放送のTBSテレビ「情熱大陸」には彼女が登場する。

追記;2024年10月9日無事シシャパンマに登頂し、14座制覇した、の報が届いた。

日本の女性看護師、ヒマラヤ13座征服!


        写真は、谷口けい「Picasaの写真」ブログwww.east-wind.jpより

  







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