前回週刊文春の報道ネタについて少し触れたが、そのネタの中に現内閣の中枢にいる人物がいる。彼は内閣総理大臣補佐官として実質的に総理のブレインとして枢要な立場にいるので、どうしても関心を向けられることになるのだが、この種報道が難しいのは昔から捜査機関の上層部から、これからという時に圧力が加わり、道半ばで事件捜査は終結してしまい、報道自体もそこに同じような圧力により萎縮してしまい、まるで何もなかったかのような状態に陥ってしまうのが通例だからである。今回文春デジタルが報じた「内閣官房副長官」である木原誠二氏の妻が、かつての夫であり同居中の深夜に何者かに惨殺され、事件が未解決になっていたものを、警視庁の未解決事件に光を当てる(ドラマにもなった)特捜が事件を洗い直し、新証言から妻を殺人事件の本星(直接手を下さなくても共犯でも同じ)として強制捜査に着手したのを並行して取材したものであった。
ここまで書けば、似たような事が昔あったなと気付いた方もいるかも知れない。まだ安倍総理が存命で、周りから「忖度」を受け、政治家でなくても側近のような存在であれば「守られた」人物もいた。山口敬之氏はTBSワシントン支局長当時、ニューヨークで記者の見習いとして来ていた伊藤詩織氏と会う。彼女が帰国後山口氏と会食する時に薬物の影響で意識不明に陥り、ホテルで介抱した山口氏から性的暴行を受ける。山口氏は彼女の承諾があったと主張するが、そんなことはないレイプされたと言って警視庁に告訴するのである。事件の捜査は、まず現場であった所轄署が捜査をすることになる。そして当時の強行犯係が捜査して逮捕状を請求し空港で逮捕する直前までに至る。そこから事件はあっけなく萎んでしまう。当時の警視庁刑事部長(警視監)であった中村格氏の指示により捜査はストップしたのである。山口氏の著作である「総理」は出版したタイミングが安倍氏に対する宣伝効果と安倍氏から直接聞かずに出来ない類の内容であり反響が良かった。中村氏は菅前首相にも近く、刑事部長になる前の2012年には菅官房長官の秘書官をしている。中村氏は父親が福岡県警のいわゆる「たたき上げ」であり父親の後ろ姿を見て育ったはずである。警察は「正義感」が強いだけではなく、法に触れるようなことは絶対してはいけないし、もし彼もたたき上げの警察官だったらそれを実行したであろう。既に裁判官が許可した「逮捕状」という許可状は、逮捕出来るまで更新してこそすれ執行を放棄するようなことは絶対してはいけないはずである。なぜなら、被害者から被害届が出され、捜査を尽くして証拠を集め、裁判で有罪に持ち込むだけの時間と労力を注ぎ込んでいるし、何より血税が使われているからである。よって許可状であるからそれを執行するかどうかは裁量による等通用しない。警視庁は汚点を作ったとしか言いようがない。刑事部長としての彼の配下には何百、何千人の刑事がいて、臍(ほぞ)を噛んだ者も一人や二人ではないはずである。中村氏は「実績」が評価され、後に警察庁長官に登り詰めている。父親は喜んだだろうか?しかし奇しくも在任中に元安倍総理が銃撃を受け(何か因縁めいた気がしないでもない)、その責任を取って長官を辞任することになってしまった。「天網恢恢疎にして漏らさず」という諺を、私がまだ若い頃に上司が述べている。「どんなに悪い奴でもな、それを見逃してしまうことになったとしてもな、何時かはそいつはどっかで裁かれることになるんや」と。だから悔しい思いをしてもその者はきっと天から裁かれるのだと。ニューヨーク領事を経験したその上司はまだ若い五十代で亡くなっている。世の中には許してあげたい人と、許してはいけない人がいる。今回の渦中の人を見ていれば、まるで映画「砂の器」やもっと昔に作られた水上勉原作の名作「飢餓海峡」を思い起こさせる。日本は一夫多妻制ではない。しかし彼が住んでいる政界という世界には彼の法律があるようである。
映画「飢餓海峡」は、戦後間もない時期に発生した台風と火災を利用して犯行を隠蔽した犯人を求めて北海道警の老刑事(伴純三郎)が定年前にギリギリの捜査を行うが果たし得なかった。その後に捜査を担当した若き刑事(高倉健)が、まるで弔い合戦のようにジリジリと犯人の居場所を追い詰めていくのだ。「砂の器」もそうだったが、人間が幸せを求めるがために過去の自分を、上り詰めた今の人生から切り離そうとする事がある。
官房副長官もその妻もまるで逃亡者のように過去を否定し、過去から逃げるのに必死になっているかのようだ。この事は衆議院選に影響があるだろうか。東大卒、財務省とエリートコースを歩み、一度は落選の憂き目にあったものの(統一教会の集票効果もあったのであろう)返り咲いている。そして今は、総理のブレーンとして盤石の地位に上り詰めている。襲撃事件一年を経て安倍派である清和政策研究会は領袖を失い混迷を深めている。同様に彼の属する宏池会が「財政健全化」を押し通し、清和会の「積極財政」とは一線を画する。内閣支持率も、サミット後に身内の不祥事から「健全化」を失いかけ、マイナンバー不祥事と続き、立て直しに必死である。貿易黒字で、世界からも株価高騰で沸いている日本で今総理には難しい舵取りが任されている。
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