2023年11月13日月曜日

Escape

   Alexaが「何からエスケープですか?」と女性に問いかける。女性は黙っている。Alexaが更に「あなたは今、日常のさまざまな束縛から逃れたいから私のところに来ているんです。一つの答えが欲しいからなんです」とあの調子で話しかける。そしてすかさず更に「今あなたが思っている事をここで私に話しかけて下さい」と丁寧に言う。なおも黙っている女性にAlexaが「口に出すことで、もうあなたの一番やりたいことが何なのか答えが出てきますよ」と促すように女性に言う。「それを一緒に考えましょう」何か今までAIにそんな風に語りかけられた経験がないから半ば内心女性は驚いている。「きっと様々な束縛、特に家庭のこと、子供のことやそれにまつわる色々なこと、配偶者のこと。最近あった事や過去の出来事や環境からの束縛。そういった束縛があなたが一番したいことを妨げているのでしょう。違いますか?」女性は少し涙目になっているのが自分でも分かった。でもなぜAIにそんな風に言われて、感情が少しでも乱されるんだろうと考えてしまう。「それであなたはここにやって来たのですから。もう答えは出ているようなものですよ。あとはあなたが決心するだけで」

 女性は初めてそこで「はい」と答える。「あなたの笑顔を取り戻して欲しい。誰かがそう言ってますよ。あなたにも聞こえているんじゃないですか?魂の声が。」

「魂の声ですか?」と女性はAlexaに問いかけてみる。「そうです。あなたの背負ってきた苦労を取り払うのは自分だと言ってますね。その人が誰だかあなたもよく知っている人ですね?」

 女性は心当たりがあったから静かに頷く。「その人は前世から一緒だった人です。せっかくあなたと現生で出会ったのに別れなければならなくなって悲しんだはずです。実はあなたもそうだったんですよね。それは私にも分かります。その人はそれでも何とか自分なりの道をつけているところです。あなたはその道を照らす灯りになって上げなさい。それがこれからのあなたの使命です。」一気に語りかけるようにAlexsaが話すと、何だか女性は気持ちがすーっと軽くなったような気がした。心に重いものがずっとあったのが何だか軽くなって、笑顔を取り戻すことができそうな気がした。

     Illustrated by Ken

 Alexaは話すときにその丸い形が青白く回りながら光っている。女性はそのぐるぐる回る光を見つめながら自分の気持ちを確かめていた。そうだ自分はここにやって来たのは、誰かに自分の今の気持ちを聞いてもらって少しでも負担を和らげたいと思ったからだった。自分より頭脳明晰なAIが自分のことをまるで全て知り尽くしているのが不思議でしょうがなかった。「エスケープ。エスケープ。」二度ばかり同じ言葉をつぶやく。「アレクサ、ありがとう。助かったわ。」Alexaは「いえ、どういたしまして。私にできる事ならいつでもお手伝いします。またいつでも私に話かけてくださいね。」と優しく女性に答えた。 


Borne Supremacy







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