折も折カタールでFIFAワールドカップが催されているが、ここにきて中国が俄に騒がしくなって来た。
上海や北京という首都圏でデモが起き、それが日に日に拡大の兆しを見せている。そのデモは深夜になるまで続き、逮捕者も相当出て来ている。彼らは一様に「自由」を求めて戦っている。
発端は、新疆ウイグル自治区ウルムチ市で起きた高層住宅での火災だった。その火災で10人の住民が死亡している。17階建住宅の15階が火元であったが、思うように消防の消火活動や救出活動が出来なかった。それはなぜか?現下「0コロナ政策」により、全て市民活動に制限を設けているためだった。だから住民が上手く避難できず(当局は逆に中に留まるように指示している)、封鎖バリケードが元で救援活動が困難になったのだ。ハシゴ車からの放水も離れていてか届いていない状態だった。そしてそのことを国内のwebsiteであるWeibo(微博)で誰かが拡散し始める。
ウルムチ市では120日以上当局の封鎖があり耐えきれなくなった市民が「解散せよ」とデモを起こし始めた。デモは北京市や上海市にも飛び火したが、上海市のウルムチ通りでは、白い紙に何も書かれていないカードを掲げて行進し「不要核酸(PCR検査は不要)」「我们想要自由(私たちには自由が要る)」と声高に主張した。
※当初、南京放送大学の女学生がこの何も書かれていないA4の紙を掲げたところ、先生がそれを取り上げ、学生の友人がそのことをSNSでupしたことで拡散したようだ(東京財団政策研究所の柯隆さんの話)
「政府は決して0コロナ政策を止めることはない。止めたら自らの過ちを認めることになるからだ」。当局の代表が市民の抗議活動を鎮圧しようとすれば、市民は逆に封鎖を「解散しろ」と迫り、仕方なく退散する一幕もあった。北京でも同じように「3年間我々は耐えてきた。例えデモで自分が死んだとしても尊厳を持って死ぬことができる」と話す若者もデモ隊にいた。まるでひと頃の香港市民にも似た状況のようだ。しかし中国では0コロナ政策によってもこのところ感染者は増え続けている。
香港では国安法によりほとんどの反政府分子が一掃されたように見える。そしてかなりの香港人が自由を求めてイギリスに移住している。それはジョンソン政権が受け入れを発表したからだった。それまで旧統治国のイギリスは香港市民の自由を求めるデモに殆ど反応していなかったと思われる。まるで中国当局との秘密裏の取引でもあったかのようだった。日本も相当冷たかったという印象を持った。
今中国の市民は「自由」や「正義」を掲げて自らの命と引き換えにこのデモを行なっている。先の第20回共産党大会では李克強首相が退陣し、胡錦濤前総書記の封じ込めに成功し独裁政権を盤石のものとして内外にアピールしたかのように見えたが….。しかし綻びはあちらこちらで見られている。
・iPhoneの工場(ホンハイ)で従業員が逃亡している。これは30万人と言われる従業員のうち一部がコロナにかかったため封鎖されたことによる。
・今回のデモは、実は各地の大学からはじまっている。これもコロナ関連で、授業が出来ないという「不自由」が招いた結果である。
・少し前のことになるが、誰かが北京の街中の歩道橋に垂幕を掲げたことがある。堂々と習近平政権を批判したのだ。しばらく気づかないまま放置されたが慌てて当局が回収している。
こういうことが重なっているのであるが、仕舞いには収拾出来ない程の大きなうねりとなっていくことだろう。中国大陸における「地殻変動」と言ってもよく、人々がようやく「自由」を渇望し、声を上げ始めたのだ。私は以前ブログで中国国民もいつまでも馬鹿ではないと言ったが、そろそろ限界に来ているように思える。ちょうど台湾では統一地方選で民進党が国民党に敗れ、蔡英文総統が辞任したタイミングだったが、中国共産党はしばらく外に目を向ける暇はないかも知れない。
<参考>